100年に1度の金融危機
以下は2008年のリーマンショックから約一ヵ月後、怒涛の売りが始まった時のある日の日経平均先物の板です。この日、市場が開いてすぐサーキットブレーカーが発動し、売買停止となりました。大量の売り注文に対し、受け止める買い注文がまったくなかったのです。
売数量 価格 買数量 時 間 約定値 出来高
2583 成行 337 09:08 8180 138
5 7570 09:08 8200 51
5 7560 09:08 8210 9
5 7550 09:08 8220 28
5 7540 09:08 8230 1
5 7530 09:08 8230 1
1 7460 09:08 8230 1
25 7230 09:08 8220 1
2685 7220 09:08 8230 5
7220 2732 09:08 8200 9295
7210 169
7200 896
-
-
-
-
-
累計 47
日経平均7200円より下がないという「-」の状態でピタリとも動かない板は、保有株が全く取引できないという恐怖を感じさせるには十分でした。市場参加者のみんなが目を疑い、歴戦の生き残りデイトレーダーも表現のできない冷たい汗が流れるのを感じたそうです。
いわゆるストップ安は個別株の板ではよくあることですが、日経平均先物でのサーキットブレーカー発動は滅多なことで起こるものではありません。この世界では確率的にも統計的にも起こり得ないと思われていたことが平気で起こってしまうという好例です。
暴落は回避できる?
特に中長期投資の場合、暴落がうれしいという人は希でしょう。中には空売りや底値で買い拾うといった非常に相場観の巧みな人がいるかもしれませんが、大多数は暴落で損害に遭います。大暴落なら大損害です。
暴落で損害を蒙るのは、たいていの場合において、暴落の前にバブルが発生しているからです。株式市場の歴史は、バブル⇒暴落⇒バブル⇒暴落…の繰り返しと思っても間違いではないでしょう。
バブルが発生している状況では、大量の資金を掛けて結構な株式を保有している(ポジションを持っているといいます)状態で、その状態で株価の急落に見舞われるのですから、損害が発生するわけです。ましてや信用取引という制度を利用して、資金の3倍まで株式を購入(借金して株を買う)していれば、その損害は甚大です。
保有株式を暴落に遭う前に売却すればいいという人がいるでしょうが、一度なりとも株式投資をした人であればそれがとても困難であることが分かるでしょう。100人中99人が「これからも株式は天井知らずだ」という状況下で自分だけ売り抜けることはとても難しいのです。みんなで株式を買い上げている状況だと一人だけ逆行するのはとても勇気のいることで、実際にはほとんどの人はできません。
暴落を予期することは難しいとしても、暴落時の株価の動きを研究してみれば、少しは暴落というものの理解が深まるかもしれません。
株式の暴落を定義すると
そもそも暴落とは何でしょう。暴落は株価の下落が大きい場合に使用する言葉ですが、どの程度の下落から暴落というのでしょうか。実のところ、厳密な定義はありません。古い本によれば下落の規模によって言い方を変えていたようですが、実際にメディアで使われるのは暴落や大暴落が多いようです。
では、暴落をイメージする株価の動きは何でしょうか。大幅な下落幅や下落の速さでしょうか。いろいろな定義が可能なのでしょうが、一つには値動きの荒さがあります。
今まで見たこともないような株価の上げ下げを体験して、恐怖に駆られて投げ売ったりするのは、値動きの荒さが原因です。あまり値動きのない株価であれば熟考した末の売買ができますが、大きな値動きを伴った株価が投資家を翻弄している様子を表すのには十分なように見えます。
暴落時の変動率
株価の値動きは暴落しているときにはどのようなものなのでしょうか。急落していく株価、一時的な反発、もみ合い、底が抜けたように再度の急落…。相当に株価の値動きは荒そうです。このような株価の動きを表す指標はたくさんありますが「(高値-安値)÷終値」の変動率を使って調べてみます。
株式市場にあまり詳しくない人のために説明すると、一日の株価の動きは「始値、高値、安値、終値」の四本値で表されます。始値は一番初めに値が付いた株価、高値は最も高かった株価、安値は最も低かった株価、終値は最後に値が付いた株価です。
まず、暴落が発生した後から30日間の株価変動率を日経平均を使って計算してみましょう。暴落が起こっている期間の変動率はとても大きくなるはずです。
記録に残る暴落を以下にピックアップしてみました。歴史的に確定した日付があるものとないものがありますが、日付のないものは適当に決めました。なお、日付が確定しているものでも暴落の震源地が外国の場合や日本の株式市場が終了した後に暴落イベントが発生した場合は影響の出始める次の日から検証しています。
===================== ============= =================
①ITバブル崩壊 2000年4月 20000417-20000531
②911テロ 2001年9月11日 20010912-20011025
③ライブドアショック 2006年1月16日 20060117-20060227
④リーマンショック 2008年9月15日 20080916-20081029
変動率を検証するために用意したファイル"nikkei.txt"の内容は以下のようになっています。左から順に日付、始値、高値、安値、終値、出来高です。
:
20000104 18930 19180 18930 19000 28590
20000105 19000 19000 18220 18540 55300
20000106 18570 18580 18160 18160 57420
20000107 18190 18280 18060 18190 54750
:
(後略)
それぞれの暴落から30日間における変動率を計算するために、暴落が始まってから30日間の株価データをピックアップします。暴落の名称ごとにn1.txt~n4.txtとします。
>rpn 20010912 20011025 -c lookup -fd <nikkei.txt >n2.txt
>rpn 20060117 20060227 -c lookup -fd <nikkei.txt >n3.txt
>rpn 20080916 20081029 -c lookup -fd <nikkei.txt >n4.txt
次に30日間における変動率の平均、標準偏差、最大値、最小値を計算します。
>rpn _ #c #l #h _ _ @h @l - @c / <n2.txt | rpn -c mean >>tmp
:
>rpn _ #c #l #h _ _ @h @l - @c / <n4.txt | rpn -c mean >>tmp
>rpn _ #c #l #h _ _ @h @l - @c / <n1.txt | rpn -c sdev >>tmp
:
>rpn _ #c #l #h _ _ @h @l - @c / <n4.txt | rpn -c sdev >>tmp
>rpn _ #c #l #h _ _ @c <n1.txt | rpn -c max >>tmp
:
>rpn _ #c #l #h _ _ @c <n4.txt | rpn -c max >>tmp
>rpn _ #c #l #h _ _ @c <n1.txt | rpn -c min >>tmp
:
>rpn _ #c #l #h _ _ @c <n4.txt | rpn -c min >>tmp
次は…
とりあえず暴落を変動率と考えてデータ化しました。数値化することで暴落を少しは客観的に受け止めることができます。それでは、変動率から見たリーマンショックはどのようなものだったのでしょうか。本当に100年に1度の危機だったのでしょうか。
rpnプログラムを実行するには、rpn試用版かrpn標準版が必要です(バージョンの違いはこちら)。
lookupはユーティリティパッケージに同梱されています。sdevはビジネス統計(基礎編)に同梱されています。詳しくはプロダクトを参照ください。